肛門・直腸の病気の場合、医師の診察の必要性は十分理解できていても、感覚的な嫌悪感や羞恥心がつきまとい、患者にとっては医療機関を受診するまでの心理的ハードルが高く、受診が遅れ、医療機関を受診したときには病変が進行してしまっていることがよくあります。
　また長年痔疾患があるため、血便は痔のせいだとそのまま放置し、大腸がんが進行してしまった例もあります。肛門部でも異常を自覚した場合、早めに医療機関を受診したほうがよいでしょう。
　肛門の症状とおもな病気との関係を大別すれば、次のようになります。
　肛門内外に指の腹のようなやわらかいこぶのできるいぼ痔（痔核）、肛門の内外に孔があいてジクジクうみの出る痔瘻［じろう］、肛門の周囲に切り傷ができて痛む切れ痔（裂肛）、肛門の付近にうみがたまり、高熱が出て非常な痛みのある肛門周囲膿瘍、肛門や直腸の粘膜が肛門の外にはみ出してくる脱肛、血便があり、痔ととり違える直腸がんなどがあります。
　排便のとき肛門がひどく痛むのは切れ痔、すこしずつ痛むのはいぼ痔であることが多く、少量の出血があります。いぼ痔の出血がとまらないと、貧血を起こし、取り返しのつかない危険を招くこともあります。肛門周囲膿瘍とともに手術を考慮すべき病気です。
　排便時に鮮血が出るのは、切れ痔、いぼ痔、直腸がんなどが多いのですが、粘液がまじっているようなときには、赤痢や潰瘍性大腸炎が考えられます。抗生物質投与の副作用による大腸炎でも、ひどい場合は粘液のまじった血便が出ます（偽膜性腸炎）。
　肛門の奥のほうに異物感のあるのは、直腸がんや大腸ポリポーシス、または子宮脱などです。痔瘻は治りにくく、自然に治ることはありません。進行すると肛門のはたらきがだめになったりしますから、治療を急ぎます。
　肛門のまわりが病気でもないのに、むやみにかゆいことがあります。肛門そう痒症［こうもんそうようしょう］といい神経性のものです。中年から高齢の女性に多く、夜中にひどくなることがあります。卵巣機能の異常と関係があるといわれています。子どもの蟯虫症でも肛門周囲がかゆくなり、眠れなくなります。