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糖尿病の治療

 治療の目標

 糖尿病はいまのところ根治しうる病気ではなく、コントロールしうる病気であるといわれています。治療の目標は、良好なコントロールを長期間にわたって維持し、網膜症、腎症、神経障害などの慢性合併症や糖尿病に併発しやすい動脈硬化症の発症や進行を抑えることにあります。その結果、糖尿病をもっていても、糖尿病をもたない人と変わらない生活の質(QOL)を保ち、寿命をまっとうすることができれば、治療の目標は達成できたといえます。
 そのためにはどのような治療が必要なのでしょうか。糖尿病はインスリンの作用の不足に基づいて起こる病気ですから、乏しいインスリンを節約し、インスリンの効きかたを高めるような治療がなによりも有効です。このような目的にかなう方法が食事療法と運動療法です。

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 食事療法

 食事療法は糖尿病の病型にかかわらず、もっとも重要な治療です。高血糖を改善するためにインスリン注射が不可欠なタイプである1型糖尿病の場合にも、食事療法が基本であることは変わりません。食習慣の是正がなによりも有効な2型糖尿病では、特に食事療法の効果が大きく、食事療法を適切に実行することによって、糖尿病の症状がなくなるのはもちろん、血糖値がいちじるしく改善することはしばしば経験されます。肥満や食べすぎは、インスリン抵抗性を増大させる大きな要因ですから、食事療法によって肥満が是正できれば、インスリン抵抗性も軽減し、血糖のコントロールも改善するのです。経口糖尿病薬やインスリン治療を必要とする場合でも、食事療法の実践が前提となります。食事療法をおろそかにして、よいコントロールを達成することは困難です。

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 食事療法の効果と原則

 食事療法というと厳格な食事制限と考えがちですが、健康に生きていくうえで必要、十分なエネルギーをとり、栄養を補給することが大切です。糖尿病はインスリンの作用の不足によって起こるので、乏しいインスリンを節約し、肥満を解消し、インスリンの効果を高めるためにも食事療法をおこなってください。
 食事療法の原則は、体格、標準体重、身体の活動の強さに応じて必要なエネルギーを摂取することが第一です。肥満していれば、標準体重を維持できる最小限のエネルギーまで制限する必要があります。
 1日の適正なエネルギー摂取量は次のように決められます。
 標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
 適正エネルギー算出法(1日)
  軽労作=標準体重(kg)×25−30(kcal)
  中労作=標準体重(kg)×30−35(kcal)
  重労作=標準体重(kg)×35−40(kcal)
 これは、あくまでもめやすであり、肥満者の場合にはさらに厳しいエネルギー制限が必要です。
 次に大切な食事療法の原則は栄養素のバランスです。3大栄養素の糖質:たんぱく質:脂肪の比率は55〜60%:15〜20%:20〜25%が適正とされています。そのほか、ビタミン、ミネラルや食物繊維を十分に摂取することも大切です。
 食事療法の第3のポイントは、食事は、量的にも時間的にも規則的に摂取することです。この点は特に薬物治療をおこなっている場合には大切です。
 また、1日に少なくとも3食はとるようにし、3食のバランスもほぼ均等にするよう心掛けてください。
 食事療法の実践には『糖尿病食事療法のための食品交換表(第5版)』(日本糖尿病学会編、文光堂)を上手に活用してください。食品交換表では、日常の食品が表1から表6まで分類され、それぞれの表の中で、1単位=80キロカロリーに相当する分量(g)が示されています。
 表1から表6の区分は次のようになっています。
 「表1」=主食としてとられる食品。主として糖質を供給するでんぷんの多い食品群。穀物、いも、豆類(大豆を除く)、糖質の多い野菜(かぼちゃ、れんこん、とうもろこしなど)、種実類(くり、ぎんなんなど)
 「表2」=「表1」と同様、糖質を主とした食品。果実類
 「表3」=たんぱく質を主として供給する食品群。肉、魚介類、卵、チーズ、大豆とその製品
 「表4」=牛乳と乳製品(チーズを除く)
 「表5」=油脂類と多脂性食品
 「表6」=おもにビタミン、ミネラル、食物繊維を供給する食品群。緑黄色野菜、海藻、きのこ、こんにゃくなど。その他「調味料」が加わります
 「食品交換表」のおもな食品と栄養素を表にまとめて示します。食品交換表を用いて栄養食事指導をおこなう場合、まず1日の指示エネルギーを算定し、次にそのエネルギーを各表からどれだけ(何単位ずつ)摂取するかを決めるのです。それによって栄養素のバランスも確保されます。
 図に1600キロカロリーの指示エネルギーの場合の各表から摂取するバランスの一例を示します。このように摂取すれば、各栄養素のバランスが保たれるようになっています。
 糖尿病で薬物療法をおこなっている場合には、薬物の量や投与法を調節する際、食事療法の見直しが必要なことが多く、ただ経口糖尿病薬の種類や量を変えてもよい効果があらわれないことが少なくありません。さらに、食事療法は、糖尿病の合併症(特に腎症)の有無や程度、高血圧症や高脂血症など併発しやすい疾患の有無によっても変える必要があります。肥満が目立つ場合には、エネルギー制限を厳しくする必要があります。高血圧症があれば減塩食、高脂血症があればコレステロール制限(低コレステロール食)、腎症が進行すればたんぱく制限食、低たんぱく食がすすめられます。







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 運動療法

 運動療法も食事療法とならぶ基本的な治療です。運動療法の効果もインスリンの節約、インスリン抵抗性の改善がポイントであり、2型糖尿病の多くは食事療法と運動療法を適切に実践すれば、血糖コントロールはかなり改善されるのです。
 過剰なエネルギー摂取やエネルギーの蓄積(肥満)を食事療法で制限し、運動療法で消費することができれば肥満の是正、インスリン抵抗性の改善はいちじるしいものとなります。
 運動療法の効用としては、そのほか脂質代謝の改善、筋肉や体力の増強、心肺機能の改善・強化、ストレスの解消などが期待されています。
 食事療法がすべての糖尿病患者に有効な治療であるのに対し、運動療法は必ずしもそうではありません。たとえば、高血糖がいちじるしい場合には、運動によってかえって血糖値が高くなることがあります。インスリンの分泌や作用の低下がいちじるしい場合には、糖質の利用でなく、脂肪がエネルギー源として使われるため、ケトン体が増加することがあるのです。
 そのほか、進行した糖尿病性網膜症や腎症などの慢性合併症をもつ人が運動療法をおこなうと、眼底出血が起こったり、腎症が悪化する場合があります。足や腰に障害がある人も激しい運動によって悪化する危険があります。さらに、狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患を合併する人も運動が禁忌となる場合があり、運動療法前のメディカル・チェックが大切です。
 糖尿病の治療に適した運動としては、無理なく長期間続けられるもの、相手や道具などを必要とせず、1人で手軽にできるもの、運動の強度を調節できるものがよく、具体的には、歩行、ジョギング、体操、自転車、水泳、ジャズダンスなどがすすめられます。1回に30分間くらいをめやすに、食後血糖値が上昇する1〜2時間おこなうのが効果的です。運動の効果はあまり持続しないので、1週間に3日はおこないたいところです。
 薬物療法をおこなっている場合には、運動による低血糖の出現に注意する必要があり、キャンディー、砂糖、ビスケット、ジュースなどを携帯しておくことが大切です。

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 経口糖尿病薬

 糖尿病と診断され、食事療法や運動療法を一定の期間実践してもよいコントロールが得られない場合、経口糖尿病薬による治療が開始されます。糖尿病治療薬には表に示すようにさまざまな種類があります。作用の面から、インスリン分泌促進作用を主作用とするものと、インスリン分泌促進作用をもたないもの(膵外作用が主作用)に分けられます。
 スルホニル尿素薬(SU薬)は、40年以上も前から使われている代表的な経口糖尿病薬です。膵臓のβ細胞膜の表面に存在しているSU薬の受容体に結合することによってインスリンの分泌を促進します。SU薬には、トルブタミドなど古くから使われている第1世代のもの、グリベンクラミドやグリクラジドなど強力な効果が証明され、広く使われている第2世代のもの、さらに2000年に認可された第3世代のグリメピリドがあります。SU薬は効力が強く、空腹時血糖値が高いような症例にまず単独で投与されることが多く、単独では効果が不十分であればほかの経口糖尿病薬との併用もしばしばおこなわれます。副作用としては低血糖が重要です。
 ビグアナイド薬はさまざまな膵外作用によって血糖低下作用を示すものです。日本では従来SU薬と併用されることが多かったのですが、最近は、肥満している2型糖尿病患者の第一選択薬として使われています。副作用として乳酸アシドーシスが有名ですがきわめてまれであり、いっぽう胃腸症状がしばしばみられます。
 αグルコシダーゼ阻害薬は、糖質の吸収を阻害することによって食後の高血糖を改善する薬です。空腹時血糖はあまり高くないけれども食後の高血糖がみられる軽症の糖尿病患者に単独で投与されることが多く、またSU薬やインスリン治療とも併用されます。毎食直前に服用することが効果を発揮するには大切です。副作用では、放屁や腹部膨満、便秘、下痢などの腹部症状がしばしばみられます。
 インスリン抵抗性改善薬は、インスリンの作用を強めることによって血糖低下作用を示すものです。この薬はインスリン抵抗性が強い2型糖尿病に効果を示すことが多く、肥満している人にしばしば使われます。副作用として、浮腫、心不全、肝障害などが報告されており、体重増加もきたしやすい点が問題となります。
 速効型インスリン分泌促進薬は、SU薬ではありませんが、SU受容体に結合し、インスリン分泌を促進する薬剤です。吸収が早く作用時間も短いことが特徴であり、毎食直前に服用しなければなりません。副作用としては、低血糖に注意すべきです。
 経口糖尿病薬のおもな作用と副作用を表に示します。
 これらの経口糖尿病薬は、食事療法や運動療法の実践が前提となって効果を発揮するものであり、食事療法にかわるものではありません。また、1型糖尿病やインスリン注射をおこなわなければいけない状態の場合には経口糖尿病薬は禁忌となります。
 経口糖尿病薬は一般にまず単独の薬剤を用い、ある程度増量しても効果が不十分な場合には併用されます。しかし、コントロールが不十分なまま漫然と投与すべきではなく、そのような場合にはインスリン注射に切り換えることが必要です。





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 インスリン療法

 インスリンは1921年、カナダのバンティングとベストによって発見され、翌年には早くも注射製剤として臨床に応用され、インスリン注射が不可欠な1型糖尿病やインスリン注射を必要とする多くの糖尿病患者の命を救ってきました。
 インスリン注射の適応としては、(1)糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧性非ケトン性昏睡などいちじるしい代謝異常がみられる場合、(2)インスリン注射が不可欠な1型糖尿病、(3)2型糖尿病であって急性感染症や大きな外傷、手術を受ける場合、腎障害や肝障害を合併した場合、(4)糖尿病の妊婦や妊娠糖尿病で食事療法ではコントロールできない場合、(5)ステロイドホルモンの投与を受け、糖尿病のコントロールが悪化した場合、(6)2型糖尿病であっても高血糖がいちじるしくケトーシスを起こしている場合、その他、(7)食事療法、運動療法、経口糖尿病薬療法によってもよいコントロールが得られないすべての糖尿病患者、などが挙げられます。
 インスリン製剤には作用時間によって速効型、中間型、速効型と中間型の混合製剤、持続型(遅効型)に分類されます。
 以前はバイアル製剤だけでしたが、現在はペン型インスリン注射器用のカートリッジ製剤(カートリッジを交換するもの)、使い捨てタイプのペン型シリンジ製剤があり、ずいぶん便利になりました。どのインスリン製剤を用いるかは主治医と相談して決めることになります。ペン型インスリン注射器やペン型シリンジ製剤の使いかたについても使用法を説明したパンフレットをよく読み十分な説明を受けるようにしてください。バイアル製剤は1ml 中に40単位を含む製剤(U40)と100単位含む製剤(U100)があります。それぞれ専用のシリンジ(注射器)がありますので、まちがいなく使わなければなりません。いっぽう、カートリッジ製剤やペン型シリンジ製剤はすべて1ml に100単位含むU100製剤です。
 インスリンの投与(注射)法も以前に比べて進歩しています。その背景として、糖尿病をもたない人と同じような血中インスリンのパターンを再現することによって厳格な血糖コントロールが可能なこと、そうすれば腎症や網膜症などの合併症の発症や進行を抑えることができることがあきらかになったからです。中間型インスリンを1日1〜2回注射する方法を従来法と呼ぶことがありますが、1日3〜4回、速効型と中間型・持続型を併用して、できるだけ正常人と同じようなインスリンの血中パターンを再現し、厳格な血糖コントロールをめざす方法を強化インスリン療法と呼びます。1型糖尿病のコントロールには強化インスリン療法をおこなう必要がありますが、最近は2型糖尿病においても厳格なコントロールをめざして強化インスリン療法をおこなう場合もあります。図に代表的なインスリン投与法を示します。速効型インスリン製剤といえども皮下に注射して効果を発揮するまでに時間がかかりますので、現行のインスリン注射は食事30分前に皮下注射をおこなうのが原則です。図に示すように就寝前に中間型や持続型製剤を皮下注射することもあります。
 皮下注射は腹壁皮下、上腕外側、大腿外側などにおこないます。注射部位によって皮下からの吸収の速さに違いがあり、腹壁がもっとも速く、上腕、大腿の順におそくなります。ですから、注射をする部位は日によって今日は腹壁、明日は大腿というようには大きく変更しないほうがいいのです。
 強化インスリン療法の1つに、携帯型のインスリン持続注入ポンプを用い、皮下に注射針を刺入して、常時少量の速効型インスリンを投与する持続皮下インスリン注入療法(CSII)があります。この方法は、1型糖尿病のなかでも、特に血糖コントロールが不安定なタイプに用いられます。この方法をおこなう場合には、本人はもちろん、家人も含めて、使用法や起こり得るトラブルについての十分な知識と対処法の習得が必要です。
 インスリン療法をおこなう場合には、血糖自己測定(SMBG)を併用すると日常の血糖値を把握できるので、インスリン投与法や投与量の調節をおこなう際に役立ちます。いまは、測定に必要な血液量が非常に少なくなり、測定時間も短く、使いやすくなりました。測定用の試験紙・電極(センサー)は、インスリン治療中の場合には、医療保険の適用を受けることができます。血糖自己測定をおこなう場合には、きちんとデータを記録し、受診時に主治医に見せるようにしてください。自己管理ノートやSMBGノートなどを使用すると便利です。どのような時間帯に測定するかについては主治医と相談してください。
 インスリン療法の副作用では低血糖が重要です。特に1型糖尿病の場合には、血糖の変動が急激な場合があります。冷汗、手指のふるえ、空腹感、動悸、倦怠感、目のチラつき、集中力の低下などの症状がみられることが多く、対処が遅れてさらに低血糖が進むと昏睡におちいることがあります。インスリン注射をしている人は常に低血糖に備えて、砂糖、ぶどう糖、キャンディー、ビスケット、ジュースなどを携行してください。また「私は糖尿病です」ということを示したカードや「糖尿病手帳」(日本糖尿病協会編)などを常に携帯し、不測の事態に十分に備えてください。
 インスリン療法のそのほかの副作用としては、注射部位の皮下脂肪の増加(リポハイパートロフィー)や減少(リポアトロフィー)、インスリンアレルギー、インスリン浮腫などがありますが、いずれもまれです。





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