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糖尿病の成因に基づいた分類

 糖尿病は、これまでWHO(世界保健機関)の1985年の分類ではインスリン依存型糖尿病( I 型)、インスリン非依存型糖尿病( II 型)、栄養障害関連糖尿病、その他の糖尿病の4つに分かれていました。最近、糖尿病の成因に関する研究の進歩はめざましく、分子生物学的手法をとり入れて、遺伝子異常に基づく糖尿病などが次々にあきらかになってきました。そうした成果をふまえて糖尿病の分類についても世界的に見直しがおこなわれ、1998年にはWHOから診断と分類に関する暫定報告が出されました。
 新分類では、1.インスリン依存型糖尿病を1型糖尿病、2.インスリン非依存型糖尿病を2型糖尿病と呼ぶこととし、さらに、従来の栄養障害関連糖尿病という分類を廃止し、3として特定の原因によるその他の糖尿病をまとめ、さらに4に妊娠糖尿病が位置づけられるようになりました。インスリン依存型、インスリン非依存型という従来の分類は、高血糖の状態を改善し、生命の危険を防ぐために、インスリン注射が不可欠かどうかという臨床像による分類の側面が大きかったのですが、病気の分類は本来、その原因に基づいて分類するのが望ましいとの観点から1型、2型と呼ぶことにしたのです。

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 1型糖尿病

 1型糖尿病とは、インスリンを産生・分泌する膵臓のβ細胞が破壊されてしまい、インスリンが分泌されず、その結果いちじるしい高血糖になり、それを改善するためにはインスリン注射が不可欠な病型です。β細胞の破壊の原因は自己免疫のしくみによることが多く(自己免疫性)、このタイプの発症早期の患者の血中には膵臓のβ細胞に対する自己抗体(膵島細胞抗体・ICA)やその他の自己抗体(インスリン自己抗体、グルタミン酸脱炭酸酵素・GADに対する抗体など)が高率に検出されることが知られ、1型糖尿病の診断の有力なマーカーになっています。いっぽう、1型と思われる症例のなかにも自己免疫の関与が明らかでないままインスリンの絶対的欠乏におちいる場合があり、原因不明(特発性)の1型に分類しています。
 1型糖尿病の成因に関して注目されている点は、臓器移植のときに移植臓器が定着しやすいかどうかに関連する組織適合性抗原(ヒト白血球抗原・HLA)の特定の型との関連が認められていることです。日本人の場合には1型糖尿病の人のHLAのDR抗原を調べるとほとんどの症例はDR4かDR9を有することが特徴です。いっぽう、DR2を有する場合には1型糖尿病を発症しにくいということもわかっています。
 1型糖尿病の臨床的な特徴は25歳以下の発症(若年発症)が多く、非肥満のことが多く、発症は急激な場合が多く、口渇、多尿、多飲、体重減少など典型的な症状があらわれ、治療がおくれるといちじるしい高血糖とケトン体の上昇のため糖尿病性ケトアシドーシスという危険な状態におちいることもまれではありません。このタイプは、2型に比べると遺伝傾向が少ないことも特徴です。
 1型糖尿病の発症の誘因(引き金)として、ウイルス感染も想定されており、実際にインフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎などのウイルス感染が先行する場合もみられます。
 成因的には1型糖尿病と考えられる症例でも必ずしも急激な経過をとらず、発症当初は症状も乏しく、食事療法や経口糖尿病薬で治療を受けている場合があります。このようなタイプは緩徐進行型の1型糖尿病と呼ばれています。

→糖尿病の治療>急性合併症・糖尿病性昏睡>糖尿病性ケトアシドーシス

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 2型糖尿病

 2型糖尿病は、1型糖尿病のような明らかな特徴に乏しいタイプといえます。インスリン分泌低下にインスリン抵抗性が加わってインスリンの作用の不足が起こるもので、糖尿病患者全体の90%くらいを占めています。
 2型糖尿病の臨床的特徴は、中年以降に発症することが多く、発症はゆるやかで、肥満している者が多いこと、家系内に糖尿病の者がいることが多い(遺伝性が濃い)ことなどです。すなわち、糖尿病を起こしやすい遺伝素因がある人に肥満、過食、高脂肪食、運動不足、ストレスさらには加齢などの環境因子、後天的な因子が加わって発症に至るもので、「生活習慣病」と呼ばれる糖尿病は2型糖尿病です。したがって、治療はまず食事療法、運動療法をおこなうことが大切で、生活習慣の是正によって肥満が解消できれば高血糖状態もいちじるしく改善することが期待できます。
 2型糖尿病の真の原因はいまのところ不明です。すなわち、なぜインスリン分泌が低下するのか、インスリン抵抗性が起こるのかという根本的な点は解明されておらず、特殊な糖尿病にみられるような(単一)遺伝子の異常はあきらかではありません。2型糖尿病は病態(インスリン分泌低下、インスリン抵抗性、高血糖の程度など)の点でも、成因の点でも不均一であり、多様な疾患が(いまのところは明確に区別できずに)集まっている状態ともいえます。
 ここで、インスリン依存型・非依存型という呼称と、1型・2型という呼称の関連についてもう一度説明しておきます。インスリン依存型・非依存型という呼称(分類)は、インスリン依存性の程度あるいは治療上インスリン注射が不可欠かどうかという観点に基づくものです。いっぽう、1型・2型は成因による分類の呼称です。1型糖尿病の多くはインスリン依存型(あるいはインスリン依存状態)に進行しますので、1型=インスリン依存型と考えてもよい場合が多いのですが、なかには1型でも徐々に進行(悪化)していく途中の過程でとらえればインスリン非依存型(状態)の場合もあるのです。また、逆に成因的には2型糖尿病であっても一時的にインスリン注射が不可欠な状態(インスリン依存状態)におちいることがあります。たとえば重症の感染症を合併した場合や、清涼飲料水を多飲していちじるしい高血糖とケトン体の上昇がみられ、ケトアシドーシスを呈するような場合です。後者のような状態を清涼飲料水ケトーシスと呼ぶことがありますが、若い2型糖尿病の肥満男性にときどきみられます。

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 その他の特定の機序・疾患によるもの

 第3の病型は、さらに細分類して、A「遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの」と、B「他の疾患、条件に伴うもの」に分けられます。WHOの1998年の新しい分類ではこれらを一緒にしていますが、これらを明確に分類したのは日本糖尿病学会の分類の特徴ともいえます。Aは、最近次々にあきらかになった単一遺伝子異常による糖尿病であり、インスリン遺伝子やインスリン受容体遺伝子異常などのほか、若年発症で濃厚な家族歴を有し(常染色体優性)、タタソール症候群(MODY:maturity‐onset type diabetes of the young)と呼ばれるものやミトコンドリアDNAの異常による糖尿病などが含まれています。
 ミトコンドリアはエネルギー産生に重要なはたらきをしている細胞内小器官ですが、ミトコンドリアDNAの変異によってインスリン分泌が低下し、糖尿病をきたすことがあきらかになりました。このタイプは、母系遺伝すること、難聴(感音性)を伴うことが多いことなどの特徴があり、日本人では全糖尿病の1%程度にみられるといわれています。
 その他の糖尿病のBは、いわゆる二次性糖尿病であり、膵外分泌疾患、内分泌疾患、肝疾患、薬剤性などに細分されます。内分泌疾患によるものは、末端肥大症(アクロメガリー)、クッシング症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症などに伴うものです。
 ありふれた2型糖尿病と診断されているなかに、これらの内分泌疾患による二次性のものがひそんでいる場合があります。たとえば、末端肥大症では脳下垂体の腫瘍を摘出することによって、糖尿病が完全に治癒する可能性があり、見のがさないことが重要です。薬剤性のものでしばしばみられるのは副腎皮質ホルモン(プレドニゾロンなど)服用中にみられる糖尿病です。



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 妊娠糖尿病

 妊娠糖尿病とは妊娠中にはじめて発症または発見されたさまざまな程度の耐糖能異常と定義されています。この定義によれば、耐糖能異常が妊娠以前から存在していたが、発見されていなかった場合や、妊娠後も耐糖能異常が持続するかどうかは問わないことになります。妊娠中、耐糖能が低下する理由は、胎盤が形成されるとインスリンに拮抗するホルモンが産生されたり、インスリンの分解が高まることによるものです。
 妊娠中の血糖値の上昇は、母体にも、胎児、新生児にも表に示すような影響を及ぼすので、厳格にコントロールをおこなうことが重要です。また、妊娠糖尿病と診断された女性は、将来糖尿病(2型)を発症する可能性(リスク)が高いので、注意する必要があります。
 妊娠糖尿病の診断については糖尿病の診断基準の項で述べることにします。



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