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老年期うつ病[ろうねんきうつびょう]

 精神科を受診する高齢者は、年々増加の傾向を示しています。1980年代以降は、年齢別受診率からみても75歳以上の高齢者がもっとも多く、80歳以上では100人に1人が精神科の受診歴を持っています。さらに80歳以上の自殺死亡率では10万人当たり60人を超え、40代の10人と比べると、いかに高齢者のこころの問題が大きいかがわかります。特に抑うつ気分、活動性の低下を伴う「うつ状態」が、高齢者のこころの病気でもっとも多くみられます。
 老年期のうつ病の60〜80%は、生活上のつらいできごとにより誘発されるといわれています。その大部分が喪失体験です。配偶者や友人との死別、生きがいや社会的役割の喪失、身体的、心理的機能の喪失など、老年期は若い時代に獲得したさまざまなものが失われていく過程といってもいいのです。
 そのうえさらに、高齢者は脳の器質的疾患、すなわち脳卒中や脳血管障害が存在する確率が高く、脳障害のあらわれとして「痴呆」や「うつ状態」をきたす要因があるのです。老年期のうつ病は、若年者のうつ病とは異なり、自らゆううつな気分をうったえることが少なく、「楽しくない」、「心が晴れない」などと表現することが多く、一見それほど深刻なようすに見えないので見のがしやすいのです。
 見のがしやすいもう1つの原因は、食欲が進まなかったり、頭痛、不眠、疲労感など、心ではなくからだの不調をうったえる特徴があることです。このように、身体症状が前面に出ているが、その裏には実は「こころの病気」が潜んでいる場合、「仮面うつ病」と呼ばれます。この場合いくら内科の治療をしてもよくなりません。
 うつ病が進行すると、思考の停止が起こり、自責感、被害妄想などに悩まされ、ついには死にたいと考えるようになります(希死念慮)。また、不安やイライラが強くなり、正常な記憶や思考ができなくなり、痴呆の症状が出現することもあります。
 精神障害が原因で痴呆に似た症状を呈するものは、仮性痴呆と呼ばれ、原因としてはうつ病がもっとも多いのです。両者を区別することは専門家でもむずかしい場合があります。下の表は記憶障害を伴ううつ病と軽度の痴呆を比較したものです。
 うつ病を早期発見するためには、特定できないからだのうったえ(不定愁訴)がいままで以上に過度になったり、元気がなくなり態度が以前と変わって拒否的となったときは要注意です。うつ病に対しては、介護者は患者のうったえを否定したり、がんばるように励ますのは逆効果です。うったえに耳を傾け、共感する態度が重要です。また自殺念慮についても、積極的に話題にして、患者のうったえを受け入れながら、自殺を回避させることが必要です。
 また薬剤は、副作用が出現しやすいので、十分に患者と話し合いながら投薬します。適切に対応すれば、よく治ります。しかし、再発率も40〜70%と高く、精神科医とよく連絡をとりながら対処することが求められます。表は、自分でもできる「うつ病」診断です。このテストで40点以上だとうつ傾向があると診断されます。

記憶障害を伴ううつ病と軽度アルツハイマー型痴呆の鑑別


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