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老化とは


 生理的加齢現象

 高齢者は、たとえば心臓のポンプ能力や肺活量、糖代謝能力の低下、貧血など、からだの各部分の機能が若い人に比べて低下すると従来いわれてきました。しかし、老化には大きな個人差があるということを考えると、一概にからだの加齢現象はこうだといえないのではないかとの疑問がわきます。
 実際、最近の研究によれば、いままで生理的加齢現象、いい換えると生物として宿命づけられている、だれにでも起こる老化現象として考えられていたものも、実はそうではなく、人によりかなり異なることがしだいにわかってきました。

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 耐糖能と加齢

 糖尿病は、血液中のぶどう糖が組織に効率よく取り込まれずに血中に停滞する病気です。これはインスリンというホルモンの作用が低下するためです。この状態は、動脈硬化をいちじるしく促進します。高齢者は、はっきりした糖尿病がなくても、インスリンが効きにくく(インスリン抵抗性)、結果として食後の高血糖や高インスリン血症(耐糖能の低下)におちいりやすいといわれてきました。しかし、これらは、若い人でも肥満や運動不足、食事のカロリーが過剰の場合にみられるものです。そして、高齢者は運動不足や肥満になりやすいものです。
 したがって、耐糖能低下が加齢現象そのものの効果か、老年期にふつうにみられる生活習慣の変化によるものかは、すぐには決められません。最近の研究では、老年期のインスリン抵抗性は加齢だけでは説明できず、むしろ生活習慣の影響が大きいことがあきらかとなりました。
 いい換えますと、従来老化のためとして、不可避と考えられていた高齢者の耐糖能低下も、実はそうではなく、生活習慣を若々しく活発に保っていれば防げるものであることがわかったわけです。すなわち、ライフスタイルいかんによって、老化のスピードはずいぶん異なるものなのです。
 このように、従来老化現象そのものと思われていて、実は老年期のライフスタイル因子によってかなり左右されていることが判明したものは、ほかにも多数あります。

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 骨粗鬆症と加齢

 骨は、年とともに弱くなります。これは、骨を構成するカルシウムなどの成分の密度が減少するためです。特に女性にこの傾向が強くあらわれます。骨折は、老年期の快適な生活をいちじるしくそこなうばかりでなく、時には寝たきりの原因になって命とりにさえなりかねません。
 まず、20代、30代で男も女も生理的に骨の減少が起こり始めます。さらに女性は、閉経期を過ぎるころから、その減少が加速されます。これらは、だれにでも起こる老化現象で、いわば宿命的なものです。
 大事なことは、予防可能な第3の因子があることです。このことが高齢者の骨の強さの個人差をつくっているのです。すなわち、喫煙、大量飲酒、カルシウム摂取の不足などが、加齢の効果以上に骨を減少させます。ここでも、生活スタイルが骨の減少という老化現象のスピードに影響を与えているわけです。

→代謝・ホルモンの異常によるもの>骨粗鬆症(オステオポローシス)

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 心臓と加齢

 人間の臓器は、肝臓、腎臓、脳、筋肉、いずれも年とともに萎縮していきます。このルールに従わない唯一の臓器が心臓です。高齢者の心臓は肥大します。それは、加齢で血圧が上昇することに原因があります。心臓は、高い血圧に抗して血液を全身に拍出するため、高齢者の心臓は肥大するわけです。これは正常血圧範囲内の軽い程度の血圧上昇でも起こるのです。
 心臓が1分間に何リットルの血液を拍出するかをあらわしたものを心拍出量と呼びます。下図は、正常人の年齢と心拍出量の関係をあらわしたものです。A図は、昭和30年の研究成績で、加齢とともに心拍出量は直線的に低下しています。B図は、同じく正常人の加齢と心拍出量の関係をあらわしていますが、この図では、年をとっても心拍出量は、変化しておりません。
 実は、B図は昭和30年から30年を経た昭和59年の研究成績なのです。30年の間に、人の加齢現象が変わったとは考えられません。2つの研究結果が違った理由は、一応正常人といいながら、2つの研究の対象者が、実は異なる種類の正常人であったためと推定されます。昭和30年のそれは、たとえば肺炎で入院したけれども、回復してよくなった後の“入院している”正常人であり、いっぽう、昭和59年のそれは現実に地域で“活動的な日常生活を送っている”元気のよい正常人だったのです。
 ここでも、ライフスタイルの違いが、からだの老化に影響を与えている事実があきらかです。

“正常人”心拍出量の加齢変化

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 認知能力と加齢

 老化は、精神認知機能にも及びます。もっとも顕著な現象は、記憶力、記銘力の減退です。そして、より高次の精神機能、言語、推理、洞察、空間認知機能などもおとろえてきます。しかし、一見避けられないと思われるこの認知機能の老化も、加齢以外の要素によって大きく影響されることがあきらかにされつつあります。それは、栄養とか教育の因子です。特に、教育の影響は大きく、教育レベルが同等の集団に限ると、認知能力テストの結果は、加齢の影響を受けないとされています。すなわち、高い教育歴をもつ人は、そうでない人より高い点数を獲得します。単に高齢者と若年者を比較した場合、教育レベルが若年者で高いために、見かけ上、高齢者の点数が低く出てしまうわけです。
 また、認知機能の異なる高齢者の集団を対象にして、トレーニングの効果をみた成績もあります。それによりますと、高齢者といえども、何回かのレッスンのあとには、はっきりとした認知機能の改善が認められました。これらのことから、認知機能の老化も不可避ではなく、訓練しだいでは防ぐこともできるといってよいでしょう。

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 からだの老化の特徴

 「認知能力と加齢」の項では、人間の老化は、従来考えられていた以上に、加齢以外の外的因子によって影響されることを強調しました。しかし、どんなに理想的な生活を送っても、やはり、からだの老化は起こります。このように、避けられない加齢現象にはどのようなものがあるでしょうか?

かたくなる
 年をとると、臓器がかたくなります。たとえば、大動脈や心臓の組織中のコラーゲンがふえると、弾性度が減少し、かたさが増します。その結果、血圧は、収縮期の血圧が上昇し、拡張期の血圧が逆に低下します。なぜなら、若い、しなやかな大動脈は、心臓から拍出された血液をいったんそこにプールすることにより、収縮期血圧の上昇を緩衝し、逆に拡張期には、弾性力でそれを末梢側に送り出すことにより、拡張期の血圧低下を防ぐはたらきがあるのです。これを「ふいご効果」と呼んでいます。高齢者の大動脈は、しなやかさ、弾性度がなくなり、このような血圧の緩衝効果が消失するので、収縮期血圧が上昇します。心臓肥大がこのために生じることは「心臓と加齢」の項で述べました。
 いっぽう、かたくなった心臓は、収縮する機能には問題ありませんが、拡張しづらくなります。その結果、負担となるのは心房です。心房は、全身からかえってきた血液をいったん集め、拡張期に心室に送り込む役目をもっているからです。これが高齢者に心房性期外収縮や心房細動などの不整脈が多い主要な一因になっています。

反応しなくなる
 からだの機能は、さまざまな神経やホルモンのはたらきで調節されています。外界の刺激や体内の変化を察知して、それらに対し各臓器が適切に反応して、はじめて満足いく生体としての機能が維持できるわけです。
 老化したからだの1つの特徴は、このような刺激に対する反応性が低下することです。インスリンに対する感受性の低下もその1つです。交感神経の興奮に対する反応性が低下するのもその一例です。そのため、高齢者は運動しても心拍数が十分に上がりません。その原因は、交感神経やアドレナリンに対する心臓のベータ(β)受容体の反応が抑制されるためです。β 受容体の反応性低下は、高齢者の本質にせまる現象かもしれません。しかし、どうして β 受容体機能が低下するのか、まだ完全には解明されておりません。

恒常性が低下する
 血圧、心拍数、体液量、血清浸透圧、血清電解質や体温などは、常に一定の範囲内に安定した値を保っています。これらが変化したとき、生体は、すみやかにそれをもとに戻そうとする復元力がはたらきます。これをホメオスターシス(恒常性維持)機能と呼びます。老化したからだは、この機能が低下する結果、各臓器の機能が正常にいとなめないことがしばしば起こります。
 その一例が、急に立ち上がったときに、クラッとする症状の原因となる起立性低血圧です。人が座位や臥位から起立して立位をとったとき、血液が下半身に集まり、心臓から拍出される血液量が減少する結果、血圧が低下して、一時的な脳貧血の状態となるのが原因です。正常では、血圧低下を頸動脈や大動脈壁内にある調圧反射受容体が感知して、交感神経が興奮し、血圧低下を防ぎます。その機能が低下すると、血圧の変動性が大きくなり、起立時に大きく血圧が低下するわけです。
 ホメオスターシスの機能低下は、高齢者の病気や薬剤の反応が変化する原因となり、加齢の重要な側面です。

最大運動能力の低下
 運動能力の低下も、正常な加齢現象です。ここでいう運動能力の低下とは、最大酸素摂取能力の減少のことを意味します。これは、最大限努力したとき、何分間運動を持続できるかによってあらわされます。運動能力は、いかに多くの酸素を体内に取り込むことができるかで決まります。
 これは、大きく2つの因子によって左右されます。1つは運動時の心肺能力です。そして、もう1つは、末梢での筋肉における酸素の摂取能力です。老年期においても、健康な日常生活をいとなむ人は、最大運動時の心拍出量に低下はみとめられていません。すなわち、高齢者の運動能力の低下は、筋肉が酸素を摂取する能力が低下しているためです。そして、その最大の原因は、筋肉量自体の加齢による減少です。いっぽう、脂肪の量は、中年から老年初期にかけて増大します。さらに高齢になると、今度は脂肪も少なくなります。

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